2026.09.02
エッセイ
「井戸を掘った人」
日中国交回復(‘92年)の際に中国の鄧小平さんが
訪中した田中角栄さんに「井戸を掘った人を忘れない」と言って
大歓迎したことがあった。
中国の故事成句に「飲水思源」があり
「井戸の水を飲む際には、井戸を掘った人の苦労を思え」
という事から
「もの事の初めは一番苦労するので、苦労した人のことを、
いつまでも忘れるなということ」
と使われているそうだ。
この「いつまでも忘れるな」がキーなのだ。
しかし、日中関係も時を経て、
例えば、工業化で日本企業が進出して合弁会社を作ったが
中国企業は「量」の世界で「安かろう」で優位に立って
今や「質」の世界でも先進的になっているように、
どんどん変化して逆転現象が出ている。
成長曲線の論理では
長い導入期があって、その後成長期に入って拡大し、
成熟期を迎えて、徐々に退化していく
という流れなので、中国の逆転劇は
「井戸」を掘って「水」の使い方を教える長い導入期から
「水」の使い方を覚えて独自性を出す成熟期に入った
と言えるのだが、
しかし、「飲水思源」の故事成句を忘れたかのように
現在の中国の人たちは振舞っているのだ。
この事は「経営コンサルタント」の世界でも言えるのだ。
あるお客様は当社が静岡のお客様と組んで始めた「オール電化」事業に
手を挙げて本業以外の分野に進出したが、
紆余曲折があって、「太陽発電」で花開いたというケースがあったのだ。
このお客様は、後に「お蔭でエコ事業が稼ぎ頭になった」と
感謝を言って「飲水思源」を表されたのが「嬉し」かった。
しかし、このようなケースはレアなのだ。
あるお客様では「量」ばかりを追求して「火の車」状態だったが
私がその原因を分析して
「A層のお客に採算が合わないケースが多い」と言って、
「利益計画」を作って、銀行の支援を得て「利益率改善」に取組む
までお膳立てしたケースがあったが、
その結果、経営環境が大幅に改善されたにも関わらず
感謝の言葉を伺えない
というケースもあるのだ。
確かに、「お膳立て」だけでは実現せず、
その取組を徹底したお客様の努力が大きいのだが、
「お膳立て」がなかったら始まらなかったのも事実なので
会社の「運命」を変えた功績に感謝してもらっても
良いのではないかと少し思うことがある。
うちの場合、長期契約なので安定した収益を頂いているので
それだけでも「有難い」と感謝しているが、
まぁ、「経営コンサルタントの宿命と言えば、それまで」と
割り切るようにして、「一言」に期待せずにいるが
「遣り甲斐」という意味で残念に思っている。
それにしても、私は「井戸を掘った人」なのだ。
「井戸」を掘るにしても
「滅多矢鱈」では成果は覚束ないので調査して
確率の高い場所を選ぶように
リスクを回避するまで「お膳立て」して
成果が出やすいようにリードしていた
という背景があるのだ。
人生で何本も「井戸を掘る」という事はないので
掘った「井戸」で田畑が潤っている状況を作れた
「遣り甲斐」を誇りに思っている。
しかし、その「誇り」も過去の話で
「年寄の戯言」とひんしゅくを買うのがオチなので
「滅多矢鱈」に披露する訳にも行かないのも事実だ。
77才になって、事業承継も無事果たす事が出来たし
息子も新しい分野に取組んで「熱中」して
明るい将来を展望できているので
概ね「善し」と満足しているのが現状である。
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