2026.03.23
エッセイ
「一斑全豹」と「背理法」
俗に「一を聞いて十を知る」と頭の回転の速い人を表現するが、
中には、そそっかしいだけで少しズレた理解だけの人もいる。
また、「針小棒大」とも言って、些細なことを大袈裟に表現する方もいる。
ホンマに人それぞれである。
昭和48年(‘73年)にトヨタ系販売店に入社した時に、
上司の専務が、
トヨタの担当員がそれぞれの車種の市場占拠率が全国平均よりも高ければ、
全車種の市場占拠率も全国平均よりも高くなる
と言われたとミーティングの時に話された。
皆が担当員の言う通りと思って聞いていたが、
実は自社はそうではなかった。
そこで専務が私に証明しろと命じたのです。
私は、確かに自社の数字では担当員の仮説が崩れるのですが、
どのように普遍性のある証明するかと悩みました。
高校の時に数学の証明法に「数学的帰納法」があったと思い出した。
ある与件nの時に成り立つと「仮説」して
n+1の時に成り立てば普遍性があると帰納する証明。
これは、n+1の時に仮説を否定すれば背理法になる。
確かに、
全車種で各市場の市場占拠率で全国平均を上回っても
全取扱の市場占拠率が全国平均を下回る
という現状だった。
当時、トヨタは乗用車市場では高いシェアを誇っており、当然、系列の平均シェアも
高いのですが、商用車は各社との競争で低く、
さらに、自社はオート店だったのでカローラ店とほぼ同じ構図であり、
系列的にも後発だったので、さらに低いという状況だった。
地方ではビジネス車の市場規模が小さいので担当員の言うようになっていたが、
商都大阪と評されるように大阪は商用車が多く売れる市場で、
中小企業の営業車は配達を兼ねるバン・タイプが使われており、
しかもテリトリーが大阪のど真ん中で商用車が特に多い地域だった。
そして、自社は小型車がメインの販売店なので、
このジャンルには他メーカーも力を入れている状況で競争が激しい、
という環境だった。
従って、各車種がそれぞれの市場シェアの全国平均をとると
乗用車の平均シェアが高く、競争の激しい小型商用車の平均シェアが低い
という現実があり、
小型商用車の市場規模が地方では小さいので影響度が低く総平均は高い状況だったが、
小型商用車の市場規模が大きく、かつ、競争の激しい自社のエリアでは大きく影響して
総平均が全国平均よりも下回る構造的課題があったのです。
この背景には
トヨタと販売店はフランチャイズ契約で取扱車種と担当市場を決めている
という事があり自社だけでは解決できない事情があったのです。
専務は悔しいので「証明しろ」と私に命じたのです。
私は「数学的帰納法」で、
一般的にnの場合に成り立つ公式はn+1の時でも成り立てば
全ての場合でも成り立つというモノですが、
成立しなければ仮説を否定する「背理法」で証明した。
実は大阪の商用車市場が大きいのでシェアが低いと、
他の乗用車で高いシェアをとっても全車種で見るとシェアが低いのです。
つまり、シェアだけの単純平均ではなく
母数を加味した加重平均で計算する必要があるのです。
販売店は、毎年、年間契約と言って経営計画を添付してトヨタと契約するのですが、
その席で社長が証明した資料を豊田英二さんに示し、状況を話したとの事です。
その時、豊田英二さんは「お宅には数学者がいるんですね」と言ったと
後日、専務から聞いたのです。
これで自社が特異な市場で頑張っていることを立証できたのです。
これに類する「一斑全豹」という四字熟語があります。
意味は「物事の一部分だけを見て全体を判断したり批評したりすることを意味し、見識が狭いことのたとえです。」という事。
トヨタの担当員は
大衆乗用車の市場、小型商用車市場、小型バン市場
の3つとも全国平均を上回ればそれらの総市場でも上回る
と主張したので「3斑」をみて「豹」としたのです。
これは、普通に考えると正しい演繹法。
ただ、当時の会社は特異な市場にあったので例外だったのです。
実は、このエピードをご紹介するのは、
高市首相が「世界平和に貢献できるのはドナルドだけ」と言った事に対して
野党が「現実にアメリカが軍事進攻している」と問題視していることは
「一斑全豹」ではないかと思うからです。
つまり、万年批判する野党ですが、
ホンマ、「一斑」だけで武市外交を全否定しようとしているのです。
日米関係という大きな命題を維持しようとするのに
相手の弱点を突くのではなく、
弱点を美化して気分良くさせる
というのは良い交渉戦術と言えます。
お蔭で無理難題を押し付けられることなく終わったのですが、
政府を倒すことしか念頭にない偏見に満ちた野党が用いた論法は、
針小棒大に響くように主張する「負け犬の遠吠え」。
経営コンサルの現場でも
「一斑全豹」
で主張する方がいらっしゃいます。
ホンマに「それだけですか?」と訊くと「黙り込む」のですが、
これが発言力のある方なら勇気のいる仕事です。
たぶん、私も「一斑全豹」の如く警鐘ならしているので、
お客様も「また、言っている」と思っているのかも知れません。
しかし、「一斑全豹」の指摘であっても結果は付いてきているので
「予言」的な重みを感じておられる方が多いのです。
つまり、「そのようにならない」ように心掛けて欲しいのです。
現場を知らない癖にと拒否する方もいらっしゃいますが、
注意事項と受け止めて下さる方が多いので助かっています。
「一を聞いて十を知る」と言いますが、
私の意見を受容して、自分なりの行動をとっていただくと良いのです。
「現実は想いよりも深くて広い」とも言いますが、
深く知ると身動きがとれなくなるので
上辺の現実から類推するのも必要な手法。
故船井先生は出来る人の特長は
「素直プラス発想勉強好き」
と表現されたが
他人の話を素直に受け止め、
自分に都合悪い話でも逆に考えて前向きに捉え
コツコツと進める
というスタイルを推奨されました。
私の指摘を受容して、それをヒントに咀嚼して自分流の行動に移る
という「考動」で良い展開になっていただきたいと願っています。
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